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薬剤師は人工知能(AI)に仕事を奪われるのか?(2021年8月)

皆さんこんにちは。2年目薬剤師の市瀬と申します。

近年、人工知能(AI)技術は目覚ましい進化を続けており、私たちの生活の中に広く浸透しつつあります。

そう遠くない未来に人工知能が発達した結果、人間の知識を超越し、人間の生活に大きな変化が起こる

技術的特異点(シンギュラリティ)が起こるとも言われています。

そんな中、「人工知能は人間の仕事を徐々に奪っていく」という意見もよく聞きますが、私たち薬剤師の仕事も、将来的には人工知能に取って代わられてしまうのでしょうか。今回は薬剤師と人工知能の関係性について私の考えを述べたいと思います。

1.調剤~調剤監査


調剤薬局における薬剤師の業務としては、まず患者さんが薬局に持ってきた処方箋を受けつけて、その処方箋に記載されている薬剤を取り揃える調剤という業務があります。

 

この調剤業務は、現時点でも機械による自動化が進んでおり、また人間が行うより正確かつ迅速に行えるといって良いでしょう。

複数の錠剤を一包にまとめるための分包機や散剤やシロップ剤を調整するための機械など、様々な調剤行為が自動化されています。

(写真:散剤調剤ロボット)


また、薬剤が正しく調剤されているかを確認する調剤監査においても、既に機械化されています。

最終的には人間の目を通す必要はありますが、基本的には間違いを犯すことのない機械が監査を行うことで、より精度の高い監査を実施することができます。

残念ながら、調剤と調剤監査においては、人工知能というより機械の時点で人間より優れているという結論を出さざるを得ません。

2.処方監査~疑義照会


次の業務として、処方箋の内容に誤りがないかを薬学的知見から判断する処方監査があります。

ただ単に処方内容の確認をするだけであれば、データを正確に把握できる人工知能の方が優れているといえます。人間の場合は、どうしても誤りを見落としてしまうケースが起こりえます。

但し、患者さんの体質や特性によっては、医師の判断により添付文書とは異なる薬の使い方(適応外処方)をしたり、医師のよって同じ薬であっても異なる使い方をすることがよくあります。こういった処方の癖を見抜くには、経験を積んだ人間の方が適しているでしょう。


機械的、事務的に処理する人工知能では、これらのポイントを逐一指摘して、業務が逆に滞ってしまうかも知れません。

しかし、人工知能が学習を繰り返すことにより、処方の癖も見抜くことができ、人間と同等の監査を行えるようになるのであれば、人工知能を利用することも考慮すると良いのではないかと思います。

処方箋の誤りについて医師に確認する疑義照会は、人間の方が適していると思います。

人工知能が疑義照会を行った場合、細かなニュアンスを伝えることができず、正確に照会ができないかも知れません。

このようなやり取りは、人間同士でコミュニケーションをとりながら行った方が良いでしょう。

処方監査と疑義照会は、人間と人工知能でそれぞれ適している部分があり、どちらが優れているとは一概には言い切れません。

3.服薬指導~薬歴記載


調剤および監査が終了したら、患者さんに薬の説明を行う服薬指導があります。こちらも、ただ単に薬の情報を提供するだけなら、人工知能の方が正確に伝えられるかも知れません。

但し、患者さんの仕草や声、表情などから、更なる情報を導き出すことは人工知能にはできません。患者さんの気持ちになって寄り添った会話をすることができず、無機質な服薬指導になってしまいます。

服薬指導後の薬歴記載ですが、薬歴は服薬指導から得られた情報に基づいて記載するので、基本的には人間が行うことになります。但し、かつては紙の薬歴で管理されていたものが、現在は電子薬歴へと変遷しており、システム面では機械に頼っている部分が多くあります。


服薬指導は、人間にしかできず、人工知能に任せることはできないでしょう。

さいごに ~薬剤師と人工知能の共存について~


薬剤師が行う業務には様々なものがあり、その中には人工知能が得意とする分野もあれば、人間にしかできない分野もあります。

「薬剤師は人工異能に奪われるか」に対して私なりの解答としては、人工知能や機械に任せられる分野は任せていき、人間にしかできない業務を中心に取り組んでいくのが最適かと思います。

今後、人工知能に仕事を奪われないために人間の薬剤師としてどのように業務に取り組んでいくか、私たちの薬剤師の大きな課題になっていくでしょう。