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ポリファーマシーの問題点・改善のための取組について (2022年10月)

こんにちは。広報委員会の市瀬です。

私たち薬局薬剤師は、日々の業務で患者さんのお薬を管理していますが、薬を数多く服用することで「ポリファーマシー」という問題が発生することがあります。

ポリファーマシーについては、以前のコラム(2021年5月号)にて取り上げていますが、今回はそれを更に深掘りして解説していきます。

1. ポリファーマシーの定義・問題点について


過去のコラムでも取り上げていますが、改めてポリファーマシーがどのようなものか、何が問題点なのか、要点を抑えていきたいと思います。

「ポリファーマシー」 → 「Poly(複数の)」+「Pharmacy(調剤・薬剤)」 

ただし、ただ単に服用している薬剤が多いことではなく、必要以上の薬・不必要な薬が処方されることで、患者さんに害をなしてしまう恐れがあることを指します。厳密に何種類以上という定義はありませんが、6種類を超えると有害事象の発生頻度が増加するというデータがあります。

ポリファーマシーの問題点

・薬の相互作用によって副作用が現れる。

・薬を飲み忘れたり、飲み間違えたりする。

・薬を飲むこと自体を負担に感じてしまう。

・医療費の増大。

など

2. 実際にポリファーマシーを改善していこう!


ここまで読まれた方の中には、「じゃぁポリファーマシーってどうやって改善していくの?」と思われる方がいるかもしれません。

以下に簡単な例を挙げましたので、どのように改善していくかご覧ください。

A病院
 エナラプリルマレイン酸塩錠5mg 1錠 1日1回朝食後

ある患者さんが、上記の処方箋を持って薬局にいらっしゃいました。お話を伺っていくと、健康診断で高血圧を指摘され、今回初めて降圧剤を飲むことになったそうです。

ところが、飲み始めて2週間後、今度はB医院の処方箋を持って次のように仰っていました。

B医院
 デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物錠15mg 6錠 1日3回毎食後

「ここ1週間ぐらい咳が止まらないんだよ。熱もないし、鼻水や痰が絡むこともないんだけどね。」

B医院の処方箋だけだと分かりませんが、先日持ってこられたA病院の処方箋の中にヒントがあるかもしれません。

A病院で処方されたエナラプリルというお薬は、ACE阻害薬と呼ばれる降圧剤の1つです。ACE阻害薬は、血管を収縮させる物質の生成を抑えることで、血圧を下げる作用があります。ですが、ACE阻害薬はブラジキニンという物質を増やす作用があり、このブラジキニンによって空咳が誘発されてしまうことがあります。

このように、服用している薬によって生じる有害事象に対し、新たな薬剤で対処する流れを「処方カスケード」といい、これが繰り返されていくとどんどん薬が増えていく恐れがあります。

そこでA病院の医師に、副作用の疑いがあると考え情報提供を行ったところ、以下のように処方が変更となりました。

A病院
 テルミサルタン錠40mg 1錠 1日1回朝食後

テルミサルタンはARBという降圧剤の1つです。このARBには、前述の血管を収縮させる物質の働きを妨げることで血圧を下げる

作用がありますが、ブラジキニンを増やすという作用はありません。

変更した結果、長く続いた患者さんの咳症状も治まってきました。

3. おわりに


いかがでしたか?

今回のコラムを通じて、ポリファーマシーについてご理解を深めていただければ幸いです。

注意したいのが、闇雲に薬の数を減らすことが、ポリファーマシーの改善になるわけではないということです。薬を変更したことで、充分な治療効果が得られなくなってしまったら、本末転倒です。

上記のACE阻害薬も嚥下反射・咳反射を高めることによって、結果的に高齢者の誤嚥性肺炎の予防になることも期待されますから、全てを切り替えて良いというものではありません。

患者さんと信頼関係を構築し、色々話を伺った中から患者さんの症状や服薬状況・残薬状況等を見極めて、入念に検討することが大切です。